辛抱さんのコラム転載

サイトはこちら
http://shinsho.shueisha.co.jp/toranomaki/010821/

関係ある人が民営化反対するのは当然のことでしょうな
当方は世襲もクソも関係ない庶民なので、もちろん民営化賛成ですが。

特定郵便局

 全国の特定郵便局長らが日々続々逮捕されて続けている。ちなみに、今月に入って本日8月16日までに、近畿だけでも11人の郵便関係者が逮捕されるという異常事態だ。罪名は公職選挙法違反。自民党比例区で初当選した、高祖憲治衆議院議員の応援をめぐる選挙違反事件だ。で、本日の解説は特定郵便局って何?という素朴な疑問。


 そもそも郵便局には三種類ある。普通郵便局特定郵便局簡易郵便局だ。いわゆる本局と呼ばれる大きな郵便局が普通郵便局、その数およそ全国に1300局、これは全郵便局の20分の1に過ぎない。それじゃあ残りはというと、そのほとんどが特定郵便局、その数実に18916局(2000年度末)、実は“街の郵便屋さん”の大多数は、このカテゴリーの郵便局だ。普通郵便局と、特定郵便局の違いは何か?これはなかなか難しい。特定郵便局を一言で定義するなら、局長が、“特定郵便局長”という肩書きの国家公務員である郵便局ということになる。「そんなんじゃ、説明になってない!」というお叱りの声が聞こえてきそうだが、これが唯一確実に言えることなのである。しかしながら、少ない例外を無視すれば、“特定郵便局について一般的に言える”特徴はいくつかある。

 まず、
 1)郵便局の土地、建物は、郵便局長の所有物であり、国が、局長に家賃を払っている。自宅=郵便局の場合でも、この家賃は支払われる。
 2)局長には給料は勿論、公務員としての待遇が保証される。
 3)公務員としての定年はあるが、妻、子に世襲制的にその地位が受け継がれる。
 4)給料とは別に、年数百万円の経費(渡切経費・わたしきりけいひ)が支給される。
 5)局の営業成績が悪いと、局長会などで肩身が狭い思いをするが、公務員なので収入が減ることはない
 などなど。

 と、特徴を挙げると、「ええ待遇やん。俺も特定郵便局長になる。」と思う人は少なくないだろう。ところが、未だかつて、局長を公募したという話を聞いたことが無ければ、そのための国家試験があるというのも聞いたことが無い。何故か?それは、上記の 3)に秘密がある。特定郵便局長になるには、厳密には、任用試験をパスしなくてはならないのだが、その試験情報が一般に知らされることはまずない。一部の関係者だけ、つまり、慣習的に有資格者と思われる人物(特定郵便局長の後継者、郵政省OB)のみが実質的に知りうる知るシステムが出来上がっているのだ。大変な利権である。その利権の監督官庁が、旧郵政省(現総務省)であり、ここで力を発揮するのが、自民党郵政族と呼ばれる国会議員群である。その頂点にいるのが、「郵政のドン」野中広務元幹事長であることは広く知られている。

 で、今回の一連の選挙違反である。上記の“特定郵便局長の一般的特徴”にはもう一つ付け加えるべきものがある。それは、6)自民党支持者である、という特徴だ。前記のように、特定郵便局長は公務員であるので、おおっぴらに選挙運動は出来ない。しかし、このおよそ二万人の特定郵便局長が核になって、その家族、関係者等が、少なくとも数十万票規模の集票マシーンとして働いているのもまた周知の事実なのだ。今回の参院選挙で、一般的にはほとんど無名の郵政OBの高祖氏が、初挑戦で、抜群の知名度を誇る大橋巨泉氏を上回る得票を確保した理由がここにある。元々、「選挙違反は勲章」と言われる業界の体質に加えて、名簿の順位は個人名の得票数で決まる、という新選挙制度に対する危機感が、多数の逮捕者を出したという構図だ。

 こうした現状をみてみると、小泉総理が掲げる「郵政民営化」が、自民党の中にあっていかに無謀なスローガンかがわかるだろう。“お役所”“公務員”であるが故に表面化しない郵政三事業の闇の部分が、民営化と共に噴出するであろうことは、火を見るよりも明らかだ。そして、非効率が長年言われながら、この特定郵便局の数は、今でも郵政OB等の受け皿として増え続けているのが現実だ。それらは、たとえ、隣同士に作られても、絶対につぶれることはない。なぜなら、それは法的には、お役所そのものだからだ。

 ちなみに、上記二つのカテゴリー以外の郵便局が、いわゆる簡易郵便局である。これは、いわゆる業務委託形式の郵便局で、働いている人々は公務員ではない。この数全国で4500。経費的には、特定郵便局よりはるかに有利なシステムだ。しかし、全国二万の特定郵便局を、この簡易郵便局に置き換えようとする政治的モーメントは働かない。
理由は言うまでもないだろう。